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朝から俺は何を書いているのですか?(死
[東方project/文×椛]
――ドンドンドン、と。 ドアを叩く騒々しい音がした瞬間、未だ布団の中の文は居留守を決め込んだ。 「文さま! 文さま、いらっしゃらないんですか〜?」 ドアを叩きながら掛けられてくる声。 (……ううん、椛ですか……?) 声を聞くだけで、すぐに誰なのか見当がついて。そこに居るのが椛であるなら、出ないわけにもいかない。 「ふぁーい、いま出ます……」 仕方なくもぞもぞと布団から這い出して。最低限人前に出れるだけの体裁を整えてから、文はドアを開けて客人 を迎え入れた。 「おはようございます、椛。朝からどうしたんですかあ……?」 「……お昼ですし、もうすぐ夕方になると思いますが」 「あ、あれ? そうなんですか?」 椛に言われて部屋の壁時計を見ると、確かに短針はもう数字の“5”にさえ近い辺りを指し示している。 一体何時間寝ていたのだろう、と文は一瞬だけ考えて、すぐに止めた。怖い数字が答えに出てくると判っていて まで、仔細を知りたいだなんて思わないから。 「うー、すみません。どうにもアレがないと、調子が狂ってしまいまして……」 文だって普段からこんな自堕落な生活を送っているわけではない。だけど、アレが手元にないだけで、どうして も日がな何をしていいのか判らなくなってしまうのだ。 アレとはつまり、写真機のこと。先日どこぞの森で黒白と弾りあった際に、不覚にも破損してしまったのだ。文 は写真機を巧みに扱う術には長けていても、その構造も知らなければ修理の方法も判らないから。ちょっと部品が 欠けてしまうだけでも、機械に詳しい河童の友人、にとりに頼るしかない。 「あ、それでしたら。丁度ここに、にとりからお預かりしてきた荷物が」 「わわわっ! ほ、ホントですかっ!?」 椛が差し出す小箱を受け取って、文は即座に開封する。 中には殆ど新品同様にしか見えないぐらいに磨かれた写真機。破損していた暗箱の一部も、その痕跡が判らない ぐらい見事に修繕されている。 (ああ――にとりさんと友人で、本ッ当に良かった……!!) いかに機械に詳しい河童とはいえ、これだけ写真機に精通している人もそうはいないだろうし。それに、にとり さんは文の写真機に掛けている情熱を知っているだけに、決して仕事に手抜きをしないから。 手に抱くと、それが慣れ親しんだ写真機であることが否応なしに文には判る。判るのにそのボディには弾幕の痕 跡たる傷ひとつなく、妥協のない完璧な修繕。常に肌身離さない最高の愛機であるだけに、にとりさんへの感謝の 気持ちは堪えない。 「あのう……喜びを噛み締めておられる所を申し訳ないのですが、にとりからもうひとつ荷物をお預かりしていま すので」 椛の言葉が文を現実へと引き戻す。――そういえば、それがあった。 もう一つの箱。そこそこの大きさがある箱の中身を思うと、それが何か判っているだけに文は少し憂鬱な気分に もなる。ましてや、にとりが完璧な仕事をしているだけに。 「あの、にとりが中身を教えてくれなかったのですが。……コレって、何ですか?」 「ええと、そうですね……にとりさんへの、修理費代わりみたいなものです」 「はあ」 訝しそうに首を傾げてみせる椛。無理もない。 「……見たいなら、開けてもいいですよ」 「あ、では是非是非〜♪」 嬉々として箱の封を開ける椛、そして。 「ひゃあああっ!?」 椛がたちまち上げた悲鳴を聞いて、はあ、と文は大きなため息を吐く。もしかして違う荷物だったら、なんてい う甘いことも少し考えていたのだけれど――やっぱり中身は、アレだったか。 「あ、あ、あ、文さま。こ、こ、これ、は……?」 「……お願いなので、私に言わせないで下さい」 椛が幾つか箱の中から持ち上げてみせる物は、歪な色や形をしていて。見なくても判っていたことだけれど…… そのどれもが、ことごとく厭らしいことに使う道具ばかり。 少しだけ、椛がそれらの道具が何なのか判らなかったらどう説明すればいいだろうと、内心困惑もしていたのだ けれど。箱いっぱいの卑猥な玩具を見るや否や顔を真っ赤にしている椛を見る限り、どうやら説明責任からは逃れ られたみたいで、文はほっとため息を吐く。 「で、でも。どうしてコレが、修理費代わりになるんですか?」 「それは、そのう……レポートを書くんです。実際に使ってみた感想を」 「あ、なるほどー。修理費代わりにモニターを引き受けるわけですね〜」 得心したように、うんうんと椛は何度も頷いてみせてから。 「って、ええええええええ!?」 直後には、まるでノリツッコミのように。盛大に文に対して驚きの声を上げてみせた。 「じ、実際に使うって、文さまがコレ全部を!? ……どきどき」 「――違いますからー!? いくら何でも身が持ちませんってば!」 数にして十か二十か。……機械で自慰に耽るのはあまり嫌いではないけれど、いくら何でもコレだけの数をレポ ートするのには無理がある。 「……というわけで、椛。ひとつ嫌な仕事なのですが、頼めませんか?」 「嫌な仕事、ですか? 文さまの為なら、何でもしますけれど……」 「ああー、そう言って貰えると非常に助かります。――これらの機械のレポートをする為に、てきとーに弱い妖怪 でも一匹、拿捕してきて頂けませんか」 自分で全部試すのはさすがに無理でも、他人になら幾らでも酷いことはできる。いつかの氷精や宵闇の妖怪を捕 まえてきた時のように、また適当に一匹見繕ってきてレポートを書けばいいだけの話。 ただ最近は困ったことに被害者から噂が広まったのか、弱い妖怪は文の姿を見るや否や逃げてしまうようになっ たから捕まえてくるのも随分面倒になってしまっているのだった。けれどその点、椛の顔は割れていないから彼女 に頼めれば仕事は容易なことだろう。 「……い、嫌です」 「ええ、ではお願いしま……って、ええっ?」 「で、ですから、その……いくら文さまのお願いでも、き、聞けません……」 話の流れからして拒否されるとは思っていなかったものだから、文は一瞬ぽかんと口を開けて茫然としてしまう。 「……あ、ああ、そうですよね! いくら何でも、誘拐とかそういうのは、嫌ですよね?」 「ち、違います! 文さまのお願いでしたら私、どんな汚い仕事だってできます!」 言ってから椛は「でも」と言葉を濁す。 「でも……誰か妖怪を捕まえてきたら、文さまが直接、妖怪を虐めるわけですよね?」 「え、ええ。それはそうですが……」 「で、でしたら! わ、私は、誰かを連れてくるのなんて、嫌です……」 椛が言いたいことが判らなくて、文は首を傾げるしかない。何でもできると念を押してくるのに、これは嫌だと 拒否する椛。嫌なら無理強いするつもりは文には勿論ないのだけれど、椛が言いたい真意が見えなくて、文は対応 に困ってしまう。 「……………………ゎ、たし、で……」 「え?」 「で、ですから! その……私で、お試しになれば、いいじゃないですか……」 「……え、ええええっ……!?」 顔をこれでもかというぐらいに真っ赤にして言う椛。 「も、椛にそういう趣味があるなんて、知りませんでした。……どきどき」 「――違いますよ!? そういう趣味とかないですよー!?」 はぁっと、大きなため息を椛はついてみせてから。 「そうじゃなくて……例えレポートの為とはいえ、誰かが文さまの手で愛されるのが、私は嫌なだけですっ……」 じわじわと、ゆっくり時間を掛けて。けれど今度は椛が言わんとしている言葉の真意までもが、はっきりと文に も伝わってくる。 「椛、あなたまさか……」 それでも文は、椛に訊き返さずにはいられなかった。 文が訊ねると、椛はすぐに頷いてくれる。 「……私、文さまのことが、好きなんですよ……」 直接に心をぶつけてくる言葉は、文の心にも大きな衝撃となって響く。 椛のことをそういう風に見たことなんて、文には今まで一度だってなかった。それなのに「好き」と言われただ けで……否応なしに、椛のことが急に意識され始めてくる。 「こんな気持ち、文さまには迷惑なだけ、かもしれません……」 「め、迷惑だなんて! う、嬉しいです、もちろん」 椛が好きと言ってくれること。それ自体は言い繕うのではなく、本当に嬉しいと思う。だけど……。 「どうして私なんですか……? 私なんかの、一体どこが……?」 純粋に、そのことが文には疑問だった。椛とは確かに親しくしているけれど、自分が他の天狗達に較べて特別魅 力的ではないことぐらい、文にだって十分自覚していることだから。――新聞の押しつけとか、盗撮とか、他の天 狗達以上に嫌われるならともかく。 「好きになった理由なんて……わかんないです。文さまのことを好きな所だって、文さまの全部が、としか」 真っ直ぐに見つめてくる瞳に、文は射貫かれる心地さえ覚える。 「でも、でも……文さまのことが好きなのは、本当なんです! それだけはどうか、信じて下さい……」 信じるも信じないもなくて、そもそも椛の言葉は始めから疑いもなく、文の心には捉えられてしまう。それは椛 が嘘を吐くはずがないと、文自身が完全に椛のことを信頼しきっているからだ。 同時に椛がどれほど自分に心を寄せてくれているかも、今さらではあるのだけれど文には痛いほど伝わってくる。 伝わってくるのだけれど……その気持ちに、どうやって応えたらいいのかが、どうしても文には判らない。 それでも、応えなければいけない。それぐらい、文にだって判るのだ。これほど真摯に心をぶつけてきてくれる 相手を無下にすることなんて、できはしないのだから。 「え、ええっと……椛」 「……は、はい」 「私も椛のことを好きになれるかわかんないけれど、その……友達から、とか?」 「――!!」 椛の顔がぱあっと明るくなって、喜んで貰えたのが判って文はほっとする。 自分なんかの為に、椛はあんなにも真面目になってくれて。そして、こんなにも素直に喜んでくれて。 好き、と言われたせいだろうか。椛に対する特別な感情が、少しずつ心に育ち始めていることが文にもなんとな く判った。 「……ですが。でしたらなおさら、椛に対して酷いことなんてできません。こんな、機械でなんて」 椛に対して抱き始めた想いの答えが、椛が渡して向けてくれている想いと同一のものなのか、それはまだ文にも 判らない。それでも特別な想いであることは確かで、椛が大切な人であることには間違いないのだから。 けれど文がそう口にすると、椛はふるふると首を左右に振って。 「機械でも、いいんです。……文さまがしてくださるなら、私は嬉しいですから」 「で、ですがっ。きっと、とても辛いと思いますよ?」 「いいんです。文さまがしてくだされば、それだけで私は幸せですから。……優しくして、だなんて望みません」 * 椛の躰を、文はそっと抱き寄せる。 文よりも余程幼い椛の表情、そして稚い体躯。慕われることは純粋に嬉しいとは思う……けれど、同時に疚しい 気持ちばかりが堰を切ったように溢れてくる。無垢な椛のことを、自分の都合ばかり優先して、こんな形で抱いて しまって良いものだろうか。 椛が自分から服を脱いで布団の傍に寄ってくる頃には、そうした文の畏れめいた不安はより強固なものになって しまっていて。文はそうした不安な気持ちを正直に、そして同時に今更ながら辞めたほうがいいと思う気持ちを椛 にぶつけるのだけれど、椛はあっさりと首を左右に振ってそれを拒んでしまう。 「私が、文さまにして欲しいと、望んでいるのですから」 椛にそう言われることは幾らか文の気持ちを楽にするけれど、同時にそこまで椛に言わせているにも関わらず、 彼女が自分に対して抱いてくれている想いの半分さえ自分が抱けてはいないという事実が、どうしても文の心には のし掛かってきてしまう。 「……私では、ダメですか?」 「そういう、わけじゃ」 「機械でとはいえ、文さまに知らない誰かが抱かれるだなんて――私には堪えられないんです。だから、どうか苦 しまないで。これは、私の我儘ですから」 椛がそこまで自分なんかを思ってくれていることが。 今でも文にはどこか信じられないのに。それでも椛の真剣な表情、真摯な言葉は、文にそれを疑わせない。嘘が 吐けない真面目さを知っているだけに、椛の言葉はすんなりと文の心に届く。 「……わかった」 観念にも似た気持ちで、文は頷く。 椛の顔がぱあっと明るくなったのを見て、文も少しだけ心が晴れる想いがした。 「でも、機械は使わない」 「……それでは、にとりとの約束が」 「ええ、今回は使わない、ってだけです」 裸の椛の肌に触れる。しっとりと、文の指先が心地よく滑る。 「せめて今日だけは。……今日だけは機械とかじゃなくて、椛のことを愛したいんです」 椛が自分に対して寄せてくれるだけの想いを、文は持っていない。 それでも椛に愛されている気持ちの大きさは判るし、こんなにも真摯に愛されれば文だってやっぱり絆される。 少なくとも今の文には、椛のことを真面目に愛したい気持ちが確実なものとして芽生え始めているらしかった。 「……嬉しい、です」 言葉通りに嬉しそうに微笑んでくれる椛の姿を見れば、文も自然に嬉しい心地になって顔が綻んだ。 やっぱり、と。文は胸の深い部分から、確かなものとして自分の心を意識する。「好き」と言われて、一方的だ った筈の椛からの想い。でも文の心はもう、簡単に椛に惹き寄せられているみたいで。 (私も、椛のことが、もう好きなのかもしれない) 一度心の中に言葉を問いかけたなら、それはまるで自然なことであるかのように。すんなりと、受け入れられた。 「椛」 愛しい人の名前を呼ぶ。 「……好きです」 愛しく思う気持ちを、ありのまま伝える。
一発書きなので、文章が変だったり誤字が多かったりしても気にしてはいけませんc⌒っ.д.)っ
最近、文×椛に目覚めてきた感が。他のサイト様で拝見する椛は獣っ娘として書かれる/描かれることが多いみたいですが、誠実な性格付けのほうが個人的には好きかも知れません。文のことを尊敬し、同時に自分よりも地位が上の人間としても従うぐらいで。
「自分が求めてしまえば、きっと相手は拒むことができない。それが判っているのに言葉にして相手に求めてしまうことは、卑劣な行為ではないだろうか」
みたいなジレンマとかが好きです。って、マリみてでもほとんど同じような様相で書いてますんで、こんなのだからいっつもお前の文章は変化に乏しくて飽きると言われるのでしょうか(苦笑)